起立性調節障害が原因?中学生・高校生が朝起きられない症状のチェックから治療方法まで解説

起立性調節障害が原因?中学生・高校生が朝起きられない症状のチェックから治療方法まで解説

起立性調節障害とは、立ち上がった時にめまい、頭痛、動悸などの症状が出る身体の病気です。

血管や心臓といった循環器系の自律神経の調節に不調をきたすことが主な原因で、思春期前後に多く見られます。

朝起きることが難しかったり、起床時に体調不良を感じたりする起立性調節障害は、まだまだ認知度が低いことから、「怠けなのではないか」「気持ちの問題じゃないか」「サボっているだけだよね」と理解されず、その結果本人が苦しみ、学校生活に支障をきたすこともあります。

日本小児心身医学会によると、軽症例を含めると中学生の10人に1人が起立性調節障害を持ち、不登校の約30~40%が起立性調節障害を有しているとされています。実に多くの子どもたちが、この病気で悩んでいると言えるのではないでしょうか。

起立性調節障害で苦しむ子どもが安心して日々を過ごすためには、親御さんだけでなく、学校の理解も重要となります。

この記事は、起立性調節障害の社会的な理解が進むことを目的に医師の監修のもと、このような方に寄り添うため執筆しています。

  • 起立性調節障害で悩んでいる方
  • 起立性調節障害の子どもを持つ親御さん
  • 起立性調節障害の生徒を持つ先生

起立性調節障害は、本人のやる気や気合いで乗り越えられる病気ではありません。親御さんと学校の先生と医師とが連携して、起立性調節障害に悩まされている方の理解・サポートが充実することを願い、症状のセルフチェックから治療方法まで、分かりやすく紹介いたします。

松井友紀子

精神科専門医・指導医

まついこころのクリニック

1987年生まれ、2012年神戸大学医学部卒業。神戸大学医学部附属病院、岡山大学病院、単科精神科病院にて、児童・思春期の診療や医学生・初期研修医教育に携わる。現在はまついこころのクリニック児童精神科・精神科医。

最後には、起立性調節障害のサポート事例までご覧いただけます。ぜひ、最後までご覧ください。

学校案内の資料請求する

学校案内のパンフレットをみなさまに無料でお送りしております。

また、電話相談・オンライン相談・学校見学なども随時受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください♪

目次

起立性調節障害(OD)とは

起立性調節障害(OD)とは

起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)とは、血管や心臓といった循環器系の自律神経系(生命維持に必要な体内の働きを自動的に調節してくれる神経のことで、交感神経系と副交感神経系に分かれる)の機能不全が主な原因で発症する病気です。

起立時に、頭痛やめまい、倦怠感などの症状が見られます。思春期に発症しやすく、身体の成長と急激な変化に伴う疾患のため、誰しもなりうる病気で、中学生の10人に1人がかかっていると言われています。

英語名の”Orthostatic Dysregulation”を略してODと呼ばれています。

起立性調節障害のメカニズム

人の身体は、仰向けの状態から起立すると、重力によって一時的に血液が下半身に貯まり、血圧が一時的に低下します。

しかし、健康な人の場合は、すぐに自律神経系が働き、これを代償します。ノルアドレナリンというホルモンが分泌され、下半身の血管がぎゅっと収縮します。すると十分な量の血液を再び心臓に戻すことができるようになり、その結果、血圧や脳の血流が問題なく保たれるのです。

一方で、起立性調節障害の場合は、上に述べた仕組みのどこかに不調があるため、このようにはいきません。下半身に血液が貯まってしまい、血圧が低いままの状態が続いたり、心臓が過剰にバクバクしたりします。その結果、脳の血液が不足し、めまいや吐き気、頭痛、朝起きられないといった症状が生じるのです

血圧を調整する機構のどこに異常があるかで、4つ(+2つ)のサブタイプに分類されます(後述)

起立性調節障害の特徴

起立性調節障害では、以下のような特徴がみられることがあります。

  • 朝起きれないが、昼からは元気になっている
  • 夜に目が冴えて寝られなくなる
  • 症状が悪化すると、昼夜逆転生活になる
  • 立ったり座ったりすると症状が強まり、横になると軽減する
  • 日によって程度が異なる
  • 雨の前など気圧変化に影響を受ける

中学生の10人に1人が発症

起立性調節障害は中学生の10人に1人が発症

起立性調節障害は、身体が大きく変化する思春期に発症することが多く、小学生の20人に1人、中学生の10人に1人が罹患していると言われています。

起立性調節障害は、10~16歳(小学5年生~高校2年生)が好発年齢と言われており、男子よりも女子にやや多いとされています。

有病率軽症例を含めると、
・小学生の約5%
・中学生の約10%
・重症は約1%
不登校の約3-4割にODを併存する。
性差男:女 1:1.5~2
好発年齢10~16歳
遺伝・家族性約半数に遺伝傾向を認める

出典:日本小児心身医学会-起立性調節障害(OD)

春から秋にかけて、暖かい時期に症状が悪化する傾向にあり、特に新学期の時期に発症することが多いため、学校生活に支障をきたすことや、不登校や引きこもりのきっかけになることもあります。

「理解不足」が症状悪化の原因に

起立性調節障害に苦しむ子どもにとって、身体が辛いのに登校しなければならない」というストレスは、症状悪化の原因になります。

一般的にはまだまだ認知度が低いため「身体が起こせない病気」を理解されず、「怠け」「サボり」「気持ちの問題」など、心無い言葉に苦しめられる病気でもあります。

親御さんの中には、子どもの症状を「スマホへの使いすぎ」や「夜更かし」、「学校嫌い」などが原因だと考えて、怒ったり、無理やり起こそうとしたりする方もいらっしゃるかもしれません。親として、「学校にきちんと通って欲しい」、「生活習慣を整えてほしい」と思うのは、とても自然な気持ちです。

また、どこかで「子どもがこうなってしまったのには、親に責任があるのではないか」とご自身を責めてしまい、結果として本人に強い口調であたってしまうこともあるかもしれません。

一方で、そうした対応の結果、起立性調節障害の症状が悪化するだけでなく、親子関係にまで支障をきたしてしまうリスクもあります。子どもが家にも学校にも居場所がないと感じ、部屋にこもりがちになると、運動不足や昼夜逆転になってしまい、さらに起立性調節障害の症状も悪化することもあります。これは、「二次障害」と呼ばれます。

医療機関で正しい診断を受けた上で、親御さんが「起立性調節障害は身体の病気」であることを理解し、「治療には時間がかかる」など正しい知識を持って、焦らず対応する方が、二次障害を防ぎ、良い結果につながることが多いです。

繰り返しますが、起立性調節障害は、本人のやる気や根性で治るものではありません。また、親御さんの育て方が原因で起こるものではありません。

学校の先生や医師と連携して、家庭と学校の環境整備から適切な治療まで、起立性調節障害に悩まされている子どもの理解・サポートを進めることが、子どもの将来や今後の親子関係のためにはとても重要になります。

起立性調節障害の原因

起立性調節障害の原因は、下記のものがあげられます。

  • 起立時に働く循環動態の変動に対する自律神経による代償機構の破綻
  • 思春期のホルモンバランス・神経・循環器系の急激な変化
  • 過少・過剰な交感神経系の活動
  • 水分の摂取不足
  • 学校や家庭でのストレス
  • 日常活動量の低下による筋力低下と自律神経機能悪化
  • 遺伝的要素

起立性調節障害の症状

起床時に頭痛やめまい、立ちくらみ、吐き気などがみられる場合、起立性調節障害が疑われます。

特に、雨が降る前日にこれらの症状が悪化する場合や、午後には体調が改善する場合は、医療機関を受けることもご検討ください。

起立性調節障害には、下記のような症状も見られます。

  • 頭痛
  • 立ちくらみ、めまい
  • 動悸
  • だるさ、倦怠感
  • 吐き気、気持ち悪さ
  • 食欲低下
  • 車酔い
  • 腹痛
  • 顔面蒼白
  • 失神

起立性調節障害のセルフチェック

起立性調節障害のセルフチェック
本セルフチェックシートは、ODガイドライン診断アルゴリズムを参考に、青楓館高等学院が作成したものです。

下記の症状にうち、3つ以上、あるいは2つ以上の強い症状に当てはまる場合は、起立性調節障害の疑いがあるとされます。

  • 立ちくらみやめまい
  • 立った時に気分が悪くなる、ひどくなると倒れる
  • 入浴時や、嫌なことを見聞きしたときに気分が悪くなる
  • ときどき腹痛がある
  • 少し動くと動悸・息切れがする
  • 朝、中々起きられず、午前中に調子が悪い
  • 顔が青白い
  • 食欲が湧かない
  • 倦怠感(だるさ)がある、または何をやっても疲れやすい
  • 頭痛が辛い
  • 乗り物に酔いやすい

そのほか、中等症や重症になると、記憶力や集中力、思考力が低下して勉強に手がつかなくなることや、イライラしやすくなったり、落ち込みやすくなったりすることもあります。

ただし、こうした症状がある場合でも、起立性調節障害以外の病気の可能性がないか、医療機関できちんと調べてもらう必要があります。

貧血や心臓病、てんかんなど、全く別の病気である可能性もあります。また、起立性調節障害の診断は正しいけれども、発達特性(発達障害の人が持つとされる個性)や精神疾患などが実は隠れている場合もあります。

このため、症状だけで自己判断をしたり、正しい診断を先延ばししたりするよりも、信頼できる医療機関を早めに受診することをおすすめします。

起立性調節障害の診断や治療は小児科で行われることが多いものの、実施できる検査・治療の内容、起立性調節障害に対する専門性の高さや、受診可能年齢は、各医療機関ごとに異なっています。受診前に医療機関のウェブサイトを確認したり、問い合わせをして、必要な情報を事前にチェックすることもご検討ください。

起立性調節障害の診断

起立性調節障害の診断

医療機関を受診後の、起立性調節障害の診断の流れは、次のとおりです。

  1. 問診で症状やその程度を確認
  2. 起立性調節障害以外の病気の可能性を除外
  3. 新起立試験などの検査を実施
  4. 重症度を判定
  5. 心理社会的関与(本人のストレスや、環境に対するしんどさ)を評価

新起立試験の方法

起立性調節障害の疑いがある場合、「新起立試験」と呼ばれる検査が実施されることが多いです。

新起立試験では、横になり10分間安静にした状態から起立し、心拍数や血圧の変化を測定していきます。

この試験によって、4つのサブタイプを判定します。

起立性調節障害の4サブタイプ+2

起立性調節障害には、下記4つのサブタイプがあります。

  • 起立直後性低血圧(INOH)
  • 体位性頻脈症候群(POTS)
  • 血管迷走神経性失神(VVS)
  • 遷延性起立性低血圧(delayed OH)

最近では、下記の2つのサブタイプも報告されていますが、診断には特殊な装置が必要になります。

  • 脳血流低下型(起立性脳循環不全型)
  • 過剰反応型(Hyper-response型)

起立性低血圧(INOH)タイプ

起立性低血圧(INOH)タイプ

起立性調節障害の中で、最も多いタイプで、全体の23%を占めます。

起立直後に血圧が大幅に低下し、立ちくらみ、だるさ、頻脈(脈が1分間に100回以上になること)等の症状が出現します。血管を収縮させるノルアドレナリンの分泌が低下しているため、血圧の回復までに時間がかかります。

体位性頻脈症候群(POTS)タイプ

体位性頻脈症候群(POTS)タイプ

起立性調節障害の中で、2番目に多いタイプです。

起立時の血圧低下はないものの、心拍数が異常に増加します。起立直後性低血圧(INOH)とは異なり、立ちくらみはそこまでではないものの、頭痛やだるさが強いといわれています。立った時に、過剰に交感神経が興奮してしまったり、アドレナリンが分泌されすぎたりすることで生じると考えられています。

血管迷走神経性失神(NMS)タイプ

血管迷走神経性失神(NMS)タイプ

起立中に急激な血圧低下が起こり、失神を起こすタイプです。

顔面蒼白や冷や汗などの症状が見られます。立った時に過剰に頻脈になり、心臓の空打ち状態が起こることで引き起こされるとされ、起立直後性低血圧(INOH)や体位性頻脈症候群(POTS)に伴ってみられることもあります。

遷延性起立性低血圧

遷延性起立性低血圧

起立直後には血圧低下しませんが、起立状態が続くと数分以上をかけて徐々に血圧低下が進み、失神することがあるタイプです。

血管の中でも、静脈がうまく収縮しないことで起こるとされています。

起立性調節障害の治療方法

起立性調節障害の治療は、第一に「起立性調節障害がどんな病気か」をよく理解することから始まります。

そして、生活習慣を整えることが大変重要になります。とはいえ、起立性調節障害を克服することは簡単なことではありません。

日常生活に支障のない軽症例では、適切な治療によって2〜3ヶ月で改善することが多いといわれています。一方で、重症例では、2〜3年以上を要することもあります。

治療には時間がかかることも少なくないため、焦らないことも重要です。

親御さんや周囲が治療方法を本人に押し付けるのでは、うまくいかないこともあります。ご本人、親御さんが起立性調節障害のメカニズムについてよく理解し、双方が納得できる形で生活習慣や服薬のルール作りを一緒に考えて取り組めることが理想的です。

起立性調節障害の治療方法を目的別に4つ、紹介いたします。

起立性調節障害の治し方①循環血液量(体内をめぐる血液の量)を増やすために

起立性調節障害の治し方①循環血液量(体内をめぐる血液の量)を増やすために

塩分摂取量を多めにする

塩分を取ることで、体内の循環血液量を増やすことができます。

目安としては、1日10~12g摂取しましょう。(一般的には6~7g推奨)

塩分摂取のために、以下のような工夫をしている人もいます。

  • ラーメンやうどんの汁は全部飲む
  • 味噌汁やスープを積極的に摂る

塩分の多い食べ物で言うと下記の食べ物などが挙げられます。

  • ちくわなどの練り物
  • 市販のサラダチキン
  • 塩鮭
  • 漬物
  • カルボナーラなどのスパゲッティ
  • 牛丼
  • カレーライス など

その他にも自分が食べやすいもの・好きなもので、塩分を摂る工夫をしている人もいます。ふだんの食事や、間食の塩分量を自分でチェックしてみるのも良いでしょう。

水分を多く摂取する

体重30kgの場合、1.5L。体重45kgの場合、2L/日を目標に摂取しましょう。

1時間ごとにコップ1杯の水を飲む」など、ルールを決めていたほうが取り組みやすくなります。

起立性調節障害の治し方②心臓へ戻る血液量を増やすために

起立性調節障害の治し方②心臓へ戻る血液量を増やすために

無理のない範囲の運動で筋力の低下を防ぐ

  • 15~30分の散歩
  • 寝ながらの運動
  • 立っての足踏み
  • スイミングなど

しんどいからといって動かずにいたために筋力が低下すると、そのために下半身に血液が溜まりやすくなり、さらに起立性調節障害の症状が悪化するという悪循環が生じてしまいます。

立っている時、動かない時間は1~2分を限度にする

電車やバスで立つ場合には、両足をクロスさせて圧迫させたり、足踏みやつま先挙げを行いましょう。

起き上がる時は、お辞儀のポーズで前かがみになりながら、30秒ほどかけてゆっくり立つ

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

岡内 大晟のアバター 岡内 大晟 青楓館高等学院 代表

2023年、青楓館高等学院を開校し、代表に就任。社会に開かれた学校教育を目指し、総勢80名の組織を率いる。クラファン支援者220人達成。自治体や大学との共同プロジェクト実績多数。

目次
閉じる