リクルートで新卒採用、化粧品会社で香水のマーケティング、自分で立ち上げた塾、そしてGoogleでのエンジニア採用――。一見バラバラに見える仕事を渡り歩いてきた荒畦さんがたどり着いたのは、日本の高校生・大学生を世界へ送り出す「トビタテ!留学JAPAN」でした。気づけば12年。「継続が得意じゃない」と笑う荒畦さんが、なぜここまで一つのことに打ち込めているのか。回り道の先で出会った“運命”と、高校生に伝えたい「越境」と「発信」の話を聞きました。
スピーカープロフィール
荒畦さん(あらうね)
「トビタテ!留学JAPAN」に立ち上げから携わり、現在まで約12年にわたって日本の若者の海外挑戦を後押しし続けている。大学時代は国際NGO「AIESEC(アイセック)」で活動。新卒でリクルートに入社し新卒採用・研修を担当。その後、化粧品(香水)会社でのマーケティング、自身による学習塾の創業、Googleでのエンジニア採用などを経て現職へ。近年は新たにNPO法人「Leap for(リープフォー)」を立ち上げ理事に就任。多様なトビタテ生が顧問を務める「越境部活動」など、留学のハードルを下げる新しい人材育成のかたちに挑戦している。
リクルート、化粧品メーカー、起業、Google――「回り道」だらけのキャリア
生徒
まずは荒畦さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
荒畦さん
学生時代は「AIESEC(アイセック)」という、海外インターンの派遣や外国人の受け入れをしている世界的なNGOで4年間活動していました。組織づくりや事業づくり、企画づくりが面白くて、なかでも人材育成やリーダーシップに興味を持つようになって。「人材に関わる仕事がしたい」と思って、新卒でリクルートに入りました。
最初の仕事が、リクルート本社の新卒採用です。そこから採用や人材育成の仕事をずっと一貫してやってきました。学生時代から、ある意味“若者”や“大学生”という対象とはずっと向き合い続けてきた感覚があります。
生徒
リクルートを選ばれたのは、どうしてだったんですか?
荒畦さん
僕が就職活動をした2000年は、ちょうどドットコムバブルの頃で。「いち早くインターネットでビジネスを立ち上げた人が勝ち」みたいな空気がありました。だから「3年リクルートで力をつけて、その後に起業しよう」と思って入ったんです。実際に3年ほど人事をやって、その後は化粧品の会社に転職しました。
生徒
意外な展開ですね。どうしてその会社に転職したんですか?
荒畦さん
香水を輸入している会社だったんですけど、当時の社長がとにかく面白い人で。香水には全く興味はありませんでしたが、採用のお手伝いをしているうちに「うちに来ないか」と誘われて、結局9年もいました(笑)。「また会いたくなる香り」や「両想いになれる香り」みたいな商品がヒットしたりして、感性のマーケティングやゼロからモノを売る面白さ、商売そのものをそこで学ばせてもらいました。
ただ、「香水に人生をかけられるか」と問われると、自分は違うなと。やっぱり、母が教員だったこともあって、教育や人材育成への思いが抜けきらなかったんです。日本って、人材しか資源がない国じゃないですか。そのポテンシャルを開花させる仕事はやりがいがあるなと、ずっと思っていました。
高校生に伝えたいこと その1
一見バラバラなキャリアも、振り返れば一本の軸でつながっていく。やりたいことの“軸”は、回り道の中から見えてくる。
起業するも、チラシ3万枚で電話ゼロ。

荒畦さん
それで会社にお願いして、兼業で個別指導塾を起業したんです。パソコンと映像教材を使う塾で、神楽坂にたまたま住んでいたから、その近くで開きました。ところが、しっかりマーケティングもせずに立ち上げたものだから、まったくうまくいかなくて。チラシを2〜3万枚配っても、電話が1本も鳴らないんですよ。3万枚でゼロ。その後も2か月閑古鳥が鳴いた時は心が折れそうでした。
そのときに気づいたんですよね。「自分は、ちょっと自分の城をつくってみたかっただけで、強いビジョンがあるわけじゃなかったな」って。3年ほど頑張って生徒も増えてきたんですけど、もっと社会にインパクトのある仕事がしたい、刺激的な人たちと働きたいという思いが強くなって。たまたまGoogleがエンジニアの新卒採用担当を募集していたので、応募して入れてもらいました。経済的にも厳しかったので、毎月ちゃんと給料が入るのが本当にありがたかったです(笑)。
Googleで味わった“アウェイ体験”と、未来への危機感
生徒
Googleでの経験は、いかがでしたか?
荒畦さん
GoogleではAPACの採用チーム所属だったわけですが「アウェイ体験」でしたね。僕は大学時代も留学していなくて、高校で1週間ホームステイしただけ。Googleはまるでアメリカに留学したみたいな環境でした。
あとは日本の将来に危機感も感じました。それは、日本のGoogleなのに、エンジニアの応募者は、多くが日本人じゃないんです。インドや中国の学生たちが多くて。日本人は、「この要件は自分に合っていますか?」と確認まで送ってくるし、締切間際にちょろっと応募が来るくらい。一方で、インド人は、募集要項を読んでないんでしょうね。どんな職種だろうと取りあえず応募してくるから、まるでスパムメールのようでした(笑)。人口の差はもちろんですが、その意欲やアグレッシブさの違いを目の当たりにしたことが、その後のトビタテに続く危機感となりました。
高校生に伝えたいこと その2
居心地の悪い“アウェイ”な場所こそ、自分と世界の現在地が見える。危機感は、外に出た人だけが手にできる財産。
運命の再会――そして“トビタテ”に救われた
荒畦さん
実はGoogleでは、すごく運命的な出会いもあって。高校時代の1997年、僕はアメリカで1週間だけホームステイをしたんですが、当時はEメールもない時代。ホストブラザーとは、その後ずっと連絡が途絶えていたんです。
ところが、Google入社1週間目に、アメリカ本社へ異動になった前任者に連絡することになって。それで連絡しようとしたら、その人の上司が、なんと当時のホストブラザーだったんです。何万人もいる会社で、最初に再会したのが彼で鳥肌が立ちました。
生徒
そんなことが、本当にあるんですね。
荒畦さん
その半年後に、たまたまGoogleで誘われたバーベキューで教育関係者と知り合って。その人がFacebookで「文部科学省が新しいことを始めるらしい」と投稿していたのが、トビタテ(飛び立て)の創業メンバー募集の求人だったんです。塾を起業していなければ、Googleにいなければ、ホストブラザーとの再会がなければ、アウェイ体験で危機感を持っていなければ、たぶん出会えていなかった。だから、トビタテには縁というか運命を感じますし、本当に“救われた”という感覚があるんです。インパクトのある仕事を、面白い人たちと一緒にできる。それが、今につながっています。
気づけば12年。本来、僕は同じことを続けるのが得意じゃなくて、仕事も住む場所も点々としてきました。それでもここまで続いているのは、使命感というか、天命のようなものを感じているからだと思います。
なぜ「越境」が必要なのか――1週間でもいいから外に出る

生徒
高校生に向けて、伝えたいことはありますか?
荒畦さん
高校生のうちに、1週間でもいいから一度“外”に出てほしい、ということですね。僕自身、振り返ると高校時代はサッカー部くらいしか選択肢がなくて。もっと幅広く動いていたら人生は変わっていたかな、と思うんです。
外に出て“ざわざわ”する違和感を味わうと、自分とは何か、日本とは何か、地元とは何かを、初めて見直せる。越境してみて初めて気づけることって、すごく多いんですよ。
生徒
その「越境」をするために、大切なことは何でしょう。
荒畦さん
実は、越境の前提に「安心できる土台」があるんです。親友や家族みたいな、戻れる場所。それがあるからこそ、思いきって外に出る勇気が湧く。
僕自身、トビタテに出会う前、調子に乗っていた時期に起業でつまずいて、離婚も借金も経験して、「身の程」を思い知ったことがあって。そのときに支えてくれたのが、高校時代の同級生でした。安心して戻れる場所があったから、また挑戦できた。だから、挑戦と土台はセットなんだと思います。
高校生に伝えたいこと その3
思いきり挑戦できるのは、安心して戻れる「土台」があるから。「安心できる土台」があれば挑戦できる。
「好き」を発信したら、チャンスは巡ってくる
生徒
荒畦さん自身が、人生の転機で背中を押された経験はありますか?
荒畦さん
中学のとき、たまたま近所にアメリカ人がいて、英語で遊ぶような英会話に通っていたんです。そのおかげで発音が少し良くて。先生に勧められて英語の朗読コンテストに出たら、たまたま優勝してしまって。自分の「好き」や「特技」を、先生が見つけて、後押ししてくれたんですよね。
そこから、「自分で見つけられなくても、発信すれば、誰かが見つけてくれる」という感覚がつきました。だから高校生にいつも言うのは、「好きなことや興味があることは、発信しなさい」ということ。発信すると、人と情報が集まってくる。引き寄せの力が働くんです。
生徒
それは、夢を語るのが恥ずかしい人にとっては、ハードルが高いかもしれません。
荒畦さん
だからこそ、トビタテみたいな仕組みを言い訳に使えばいいんです(笑)。「応募するから、仕方なく夢を発信している」という体(てい)で、恥ずかしさを紛らわせながら、夢を口に出す。そうすると、応援してくれる人が現れる。
たとえ選考に合格しなくても、自分の挑戦を応援してくれる人と出会えたなら、それ自体がめちゃくちゃ財産だと思うんです。発信すれば人とつながれる――この“引き寄せ”のコツを早いうちに体得しておくと、社会人になってからも、夢を語って仲間を集められるようになりますから。
高校生に伝えたいこと その4
「好き」や「夢」は、恥ずかしくても発信する。発信した人のところに、応援も情報もチャンスも集まってくる。
これからの展望――「好き」を入り口に、世界へ
生徒
最後に、これからやっていきたいことを教えてください。
荒畦さん
トビタテも10年が経って、今は高校生の取り組みにも力を入れています。そしてもう一つ、「Leap for(リープフォー)」という法人を立ち上げて、トビタテではできないことに挑戦しています。
そのひとつが「越境部活動」プログラム。たとえば学校の中では「カブトムシ部」なんて作れないけれど、オンラインでつなげば、全国のカブトムシ好きで部活がつくれる。部活の顧問を多様なトビタテ生が務めるのですが、好きなことで先輩や仲間と出会って、好奇心を突き詰めていくと、調べるうちに自然と海外にたどり着くんですよ。実際に、もともと留学する気がなかった1期生が、パルクールが好きなことを突き詰めた結果、そのテーマでトビタテに合格した、なんてこともありました。まさに理想の形です。ちょうど今月から4期生の募集を開始したので、是非踏み出すきっかけとして活用してもらえると嬉しいです。
生徒
「好き」を入り口にすれば、留学そのもののハードルも下がっていきますね。
荒畦さん
そうなんです。AIをうまく使えば、選考や面接の壁も下げられる。「実績がある人しか救えない」状態から、入り口を広く、コストを低くして、もっと多くの子にチャンスを届けられる。そういう新しい人材育成のかたちを作っていきたいですね。
変態的なくらい何かを愛している子が、それを愛してくれる仲間と出会える。そういう場所をつくることが、子どもたちにとって大きな価値になると思っています。




