前編では、通信制高校とサポート校の仕組みや、青楓館高等学院(兵庫県明石市・芦屋市)がどんな考えで生徒を支えているのかを、制度の面からお伝えしました。
後編では、もう少し近くまで寄ってみます。青楓館の教室で実際に何が起きているのか。子どもたちはどんなふうに変わっていくのか。代表・岡内大晟(おかうち・たいせい)さんの言葉も交えながら、その中身を見ていきます。
「好きなもの」を、隠してしまう子どもたち
青楓館に通う生徒の多くは、入学した時点で「自分には長所がない」と感じています。けれど、よく話を聞いてみると、長所がないわけではありません。本当は、好きなものをちゃんと持っているのです。
絵が好き。昆虫が好き。けん玉が好き。どの子にも、夢中になれる何かがあります。ところが、それを大人に話すと、こう返ってくる。
「絵で大学行きますか、絵で食っていきますかとなった時に、いや別に絵は好きじゃないし、趣味だしって。子どもたちが防衛本能で隠しちゃうんです。好きだったのに好きと堂々と言えないから、好きなものがなくなる、長所がなくなるという構造かなと思います」(代表・岡内大晟さん)
好きだと言えなくなることが、好きなものを失わせ、やがて「自分には何もない」という思い込みをつくっていく。青楓館が向き合おうとしているのは、まさにこの入り口です。
学力や部活という、学校で評価されるほんの限られた基準からこぼれただけで見えなくなった長所を、もう一度すくい上げていく。子どもたちが変わっていくのは、ここからです。
週に一度、その子だけの時間がある
すくい上げると言っても、特別な魔法があるわけではありません。中心にあるのは、週に一度の1対1の面談です。
この時間に何を話すかは、その子の状態によって変わります。青楓館の先生たちは「カウンセリング」「メンタリング」「コーチング」という三つの関わり方を、生徒に合わせて使い分けています。
たとえば、不登校になったばかりで、まだ気持ちが整っていない子。そんな子にいきなり「将来どうしたい?」と未来の話を向けても、心は開きません。だからまずは、ただ寄り添う。どんな話でも、うんうんと受け止める。これが「カウンセリング」です。
少し落ち着いてきたら、次の段階に移ります。本人が短所だと思っていることを「それ、見方を変えれば長所だよ」と返したり、やりたいことに「それ、こうすれば意外と簡単にできるよ」と新しい視点を差し出したりする。これが「メンタリング」です。
そしてさらに進むと、やりたいことの実現に向けて、一緒に道を考えていく「コーチング」になります。
同じ面談でも、その子が今いる場所に合わせて、関わり方そのものを変えていく。週に一度、自分だけのために用意された時間があること。それ自体が、子どもにとっては大きな支えになります。

教室を出て、社会とつながる学び
青楓館の学びの中心にあるのが、PBL(プロジェクト型学習)と呼ばれる授業です。あらかじめ答えが決まっている問題を解くのではなく、答えのない課題に、生徒自身がリーダーとなって取り組んでいきます。
相手は、企業だったり、行政だったり。教室の外の、本物の社会です。
そのひとつに、熊本県大津町での公園づくりがありました。町が「インクルーシブな公園をつくりたい」という構想を掲げたものの、現場の人手が足りない。その部分を、青楓館の生徒たちが引き受けたのです。
「町長が考えるインクルーシブ公園ってどんなものですか、というところからヒアリングして、近隣の方に話を聞きに行ったり、キーマンを巻き込んだりしながら、こういうのはどうでしょうと企画書を出して、オッケーをもらったら実行に移していく。それを3年ぐらいかけてやっていました」(代表・岡内大晟さん)
できあがった公園では、車椅子テニスやボッチャといった障がい者スポーツを体験できるイベントも開かれました。
このプロジェクトを最初に立ち上げたのは、入学したころには不登校だった生徒たちです。それが3年をかけて取り組むうちに、当時の面影はもうどこにもなくなっていく。最後はやりきれなかった部分を後輩に託し、自分たちは卒業していきました。
かつて教室にも入れなかった子が、ひとつのことを懸命にやり抜き、次の代へきちんと手渡していく。その姿そのものが、青楓館の学びの結果です。
グループワークが苦手だった子。人前に出るのが嫌だった子。そういう生徒が、町長や地域の大人を相手に企画を提案するまでになる。
教室の中の正解を覚えるのではなく、社会の中で実際に手を動かす。そのなかで、子どもは自分の力に気づいていきます。
「とりあえずやってみろ」とは言わない
ここで気になるのは、「そんな大きなことを、いきなり子どもにやらせて大丈夫なのか」という点だと思います。答えは、いきなりやらせるわけではない、ということです。
青楓館では、PBLと並んで、コミュニケーションやビジネスマナーといった「型」を学ぶ授業があります。名刺の渡し方、人との話し方、メールの書き方。
こうした答えのある作法は、あらかじめきちんと教える。そのうえで、答えのない課題に挑ませる。
「失敗すればいい、という考え方もありますが、一度の失敗から立ち直れない子もいます。答えのある部分とない部分は、きちんと分けてあげないといけないと思っています」(代表・岡内大晟さん)
型は、知ってさえいればできるものです。人と話すのが苦手な子でも、名刺の渡し方やあいさつの順番を知っていれば、その場をちゃんとしのげる。苦手なことを、知識でカバーできる。これは、自信のない子にとって、とても心強い支えになります。
型という土台があるからこそ、苦手だった子でも一歩を踏み出せる。挑ませる前に、しのぐための備えをちゃんと渡しておく。それが青楓館のやり方です。

「自分がいなくなったあと」の不安に応えるために
「個性が大事」「そのままでいい」。今の世の中には、そんな言葉があふれています。どれも正しい。誰も反論できない正論です。けれど、岡内さんがずっと引っかかってきたのは、その正論の無責任さでした。
そのままでいい、と言うのは簡単です。言った側は、いいことを言った気持ちになって終わる。でも、その子が大人になったとき、どうやって食べていくのか。親がいなくなったあと、誰がこの子の人生に責任をとるのか。
きれいな言葉は、そのいちばん肝心な問いには、何も答えてくれません。受け皿のないまま、子どもだけが社会に放り出される。
子どものことを思う保護者が、いちばん深いところで抱えている不安も、まさにそこです。「自分がいなくなったあとも、この子は社会でやっていけるのか」。個性を認めるだけでは、この不安には応えきれません。その個性が、社会の中で実際に生きていく力にまで届いて、はじめて意味を持ちます。
「社会とつながる」ところまで責任を持つ
青楓館が開校当初から掲げているのが、「自分を知る」「社会を知る」「社会とつながる」という三つの段階です。
まず、自分を知る。岡内さんは、無人島にひとりでいたら、自分の足が速いか遅いかは分からない、と言います。人は、人と比べてはじめて自分の強みに気づける。だからこそ、いろいろな人と関わるところから始めます。
次に、社会を知る。中高生が「やりたいこと」を思い浮かべようとしても、学校と家と習い事という、限られた世界の中からしか出てきません。その三角形の外側に、どんな仕事や生き方があるのかを知る。やりたいことの選択肢そのものを、広げていくのです。
そして、社会とつながる。ここが、青楓館がもっとも大切にしているところです。なりたい自分が見えても、明日すぐになれるわけではありません。その理想と現実のあいだには、距離がある。その距離を、一歩ずつ詰めていく力を、プロジェクトを通して身につけていきます。
好きなものを見つけて終わり、自信がついて終わり、ではない。その子の個性を、社会の中で実際に生きていく力にまで結びつける。そこまでやりきって、はじめて教育だと、青楓館は考えています。
飾るための個性ではなく、社会で役に立つ個性へ。眺めて美しいだけの才能ではなく、誰かの役に立ち、その子自身を食べさせていく才能へ。
きれいごとを言って終わるのではなく、その子が生きていくところまで責任を持つ。「自分がいなくなったあと、この子はやっていけるのか」という不安に応えられる受け皿であること。それこそが、青楓館の仕事なのです。

変わるのは、子どもだけではない
こうした日々を重ねるうちに、子どもたちは少しずつ変わっていきます。その変化は、ときに保護者の想像を超えていきます。
入学したころ、自分には長所なんてない、と思っていた子。自信をなくし、うつむいていた子。その子が、卒業のころには「自分には長所がある」「今の自分が好きだ」と、自分の口で答えるようになる。かつて自分を否定していた子が、自分を肯定できるようになる。隠していた「好き」を取り戻すところから始まった時間は、ここまでたどり着きます。
たとえば、過去にいじめられた経験を、ずっと隠してきた子がいます。言いたくない、知られたくない。そう思っていた子が、青楓館で過ごすうちに、それを自分の一部として引き受けられるようになる。
やがて、初対面の大人にさえ「僕、いじめられたことがあるんです」と、自分の言葉で語れるようになっていく。隠していた傷を、自分の物語として話せるようになる。それは、大きな変化です。
そして、その変化は、学校の中だけのものでは終わりません。大学に受かる。留学が決まる。先生や仲間うちの「いいね」ではなく、世の中から公式に認められるところまで、子どもはたどり着きます。これこそが、「社会とつながる」が形になった瞬間です。
その瞬間、保護者も変わります。学校に通うことすら難しかった我が子が、まさか大学に受かるとは思っていなかった。その想像もしていなかった知らせを受け取って、はじめて肩の力が抜ける保護者は、少なくありません。
学校や先生が認めていただけのその子の良さが、社会からはっきりと認められる。子どもの変化は、やがて家族全体の景色を変えていきます。
まずは、その目で確かめてください
ここまで読んでも、「本当にうちの子も、そんなふうに変われるのか」という思いは、まだ残っているかもしれません。それは、当然のことだと思います。
だからこそ青楓館は、言葉で説明するより、実際の生徒を見てほしいと伝えています。学校説明会や個別面談では、今まさに通っている生徒たちに会うことができる。かつて学校に行けなかった子たちが、どんな表情でそこにいるのか。その姿が、どんな言葉よりも確かな答えになるはずです。
子どものことで悩む夜は、これからもあるかもしれません。けれど、その不安をひとりで抱え続ける必要はありません。
まずは一歩、学校の空気にふれてみるところから。その一歩が、お子さんにとっても、あなたにとっても、次の景色につながっていくかもしれません。




