【ホテルニューアワジ 木下学社長 INTERVIEW】不安症で、補欠だった。だからこそ人を大切にできるリーダーになれた――“弱み”は、いつか武器に変わる

関西人なら誰もが知る「ホテルニューアワジ」。そのグループを率いる木下学社長は、意外な言葉を口にした。「人と話すのが苦手で、石橋を叩きすぎて割ってしまうタイプだった」。野球では甲子園に出たチームの補欠。ベンチにも入れなかった。――でも、その性格と経験があったからこそ、今の経営がある。高校生と同じように悩んでいた少年が、弱みを武器に変えるまでの話。

スピーカープロフィール:木下 学(きのした まなぶ)
株式会社ホテルニューアワジ 代表取締役社長。
1968年、兵庫県淡路島生まれ。祖父が昭和28年に創業した宿を家業として受け継ぎ、1998年、30歳のときにグループ初となるホテルの再生を任される。2011年に神戸ベイシェラトン ホテル&タワーズの社長を経て、2015年に代表取締役社長へ就任。淡路島を中心に約20の宿泊施設を展開し、ホテル・旅館業を通じた地域の活性化に取り組む。

目次

「社長」の意外な素顔――引っ込み思案で、人と話すのが苦手だった

生徒
本日はよろしくお願いします。木下さんは昔、引っ込み思案だったと伺いました。本当ですか?

木下さん
本当ですよ。優柔不断で引っ込み思案、人と話すのも苦手でした。石橋を叩きすぎて割ってしまうタイプです(笑)。アクティブに人と交流できる人を見て「羨ましいな」とずっと思っていましたし、限られた友達といる方が全然楽でしたね。

生徒
え、今の姿からは見えないです……! 実は私も不安になりやすい性格なので、すごく共感します。「どうなったら変わるんだろう」って、高校生はみんな思っていると思うんです。

木下さん
性格が変わったのか、克服していったのか。根はもしかしたら変わっていないのかもしれません。ただ、いろんな人と会って話をしないと、対応できることの幅が広がらない。会社のリーダーとして、父として、問題解決の力を求められる中で、いろんな価値観に触れて、知らず知らずのうちに自分の考えに取り入れてきたんだと思います。

大人はよく「人脈」と言いますが、あれは要するに友達なんですね。増やすことばかりやっている人もいるけれど、それは違う。一つひとつの関わりを大事にしながら、自然と広がっていくのがいいんじゃないかなと思います。

甲子園に出たチームの、ベンチに入れない補欠だった

生徒
学生時代は、どんなふうに過ごしていたんですか?

木下さん
野球をやっていました。小学4年生から始めて、6年生のときは背番号が一桁ではなかったけれど、シーズンが本格化してからはレギュラーで出られた。中学では小学校時代の主力が別の中学に行ってしまって、残ったメンバーでの最初の新人戦は8対0のボロ負け。でもそこから猛練習して、1年後には1対0まで行って、次の春からは負けなしになりました。

ところが高校では、チームは甲子園に出たのに、私は補欠。練習に行くだけで、ベンチにも入れませんでした。チームとしては「支援」と言うけれど、心の底からは喜べなくてね。自分の劣等感をすごく感じて、野球から完全に離れました。

生徒
そうだったんですね……。

木下さん
思い切ったプレイができなかったことは、すごく後悔しています。だから今、みんなには「失敗を恐れるよりも、失敗を恐れて何もしないことを恐れなさい」と言っているんです。あれは、失敗してきた自分自身の言葉なんですよ。

大学では「大学から始められる体育会」を探してゴルフ部に入りました。最後はレギュラーになれたけれど、ここぞという試合で勝てなかった。つまり私は、小・中学校で「やればできる、努力すれば報われる」を経験して、高校・大学で「努力してもなかなか報われない」を経験したんです。

語る木下社長

補欠の劣等感が、経営者としての武器になった

生徒
その経験は、今にどう繋がっているんですか?

木下さん
社会は絶対にチームです。そしてチームの力を最大化するには、「できない側の気持ちが分かる」ことが決定的に大事なんです。

例えば10の能力の人、5の能力の人、3の能力の人がいるとして、ダメな組織は5や3の人が能力を出し切れていない。できないと言われた人は当然力が出ないし、できる人も手を緩めてしまう。私は報われる側と報われない側、両方の気持ちが分かる。だから、一緒にやっている組織が割とうまく動くんです。

周りから「どんな人も見限らず、その人の良いところを伸ばすのがあなたの良さだ」と言われたことがあります。あの補欠の劣等感がなかったら、そういう経営はできていなかったと思いますね。

生徒
弱みだったものが、武器に変わったんですね。

木下さん
そうかもしれません。採用でも「どんな人材を求めますか?」とよく聞かれるんですが、これが一番難しい質問でね。野球で言えば、4番バッターばかり集めたチームは勝てないんです。レギュラーになれないサポートのメンバーもいて、みんなが認め合って、尊敬し合うチームをつくらないといけない。

それに、才能って学校では「勉強ができる」ことになりがちだけど、世の中ではいろんなものが才能になります。人の気持ちが分かることも、コツコツ仕事ができることも、遅刻をしないことだって、めちゃくちゃすごい才能なんですよ。

生徒
メンバーに背伸びしたくなるような仕掛けもされているんですか?

木下さん
そうですよ。「これは無理でも、これならいけそうだろう」というものを渡して、「ちょっといけそうな気がします」「やってみよう」となるようにする。みんなが少しずつ背伸びをして、背伸びをしたら届く範囲のことを常にやっていく。それが組織が良くなる秘訣だと思います。

あとは絶対に伴走してあげること。私自身、30歳でグループ初めてのホテルを任されたとき、失敗もしながら思いっきりやらせてもらいました。振り返るとあれは「広い庭」だったんです。庭の周りには「そっちへ行ったら危ない」という柵がちゃんとあって、その中ではのびのび駆け回れる。自由とほったらかしは絶対に違う。致命的な失敗はさせない柵を用意した上で、のびのびやってもらうのがリーダーの仕事だと思いますね。

石橋を叩く性格だから生まれた、「振り返って、忘れる」習慣

生徒
不安になりやすい性格は、仕事にどう生きているんですか? 大変なことがあったとき、どう乗り越えていますか?

木下さん
大変なことは、できるだけ「忘れる」ようにしているんです。引きずると、前に進むうえで邪魔になるので。ただ、全く振り返らずに切り替えるのは絶対にダメ。なぜそうなったのかをちゃんと振り返って、検証する。検証が間違っていてもいいんです。振り返る習慣をきちっとつけて、反省した上で切り替える。この繰り返しです。一番しんどいのは、同じ失敗を繰り返すことですから。

会社としては阪神・淡路大震災も、コロナ禍も経験しました。お客様がほぼゼロになっても、1年後に体制を戻すとき、2〜3人以外の社員は全員戻ってきてくれた。事業と雇用を続けることは絶対だと学びましたし、ホテルニューアワジが何のためにあるのか――お客様に癒しとくつろぎを届け、人と人との繋がりを深める役割――が改めて分かった。苦しい経験にも、得られたものは多かったんです。

テーブル越しの対談風景

生徒
モチベーションの保ち方はありますか?

木下さん
課題のないゲームなんてないんです。仕事でも試合でも、結果が良くても悪くても課題に目を向けて、「よし、明日はこうしてみよう」「今週はこれをやってみよう」を毎週つくる。「やらなければならない」ではなく「やってみよう」があることは、結構なモチベーションになりますよ。

それと、先人の言葉で「意識が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人生が変わる」というものがあります。組織運営のうえで、すごく大事にしている言葉ですね。

高校生へ――無駄な経験はひとつもない。みんなで自己ベスト

生徒
高校生のうちにやったらいいことはありますか?

木下さん
失敗を恐れず、いろんな経験をすることです。いろんなことをやった中で、本当に好きなものを見つければいい。振り返ってみたら、無駄なことは一つもないんです。成功体験も、失敗体験も。補欠だったことも、引っ込み思案だったことも、全部今の私をつくっている。知識から得られる力だけではなく、経験から生まれる「生きた力」を育んで、社会で大活躍してほしいなと思います。

生徒
最後に、高校生へエールをお願いします。

木下さん
高校や大学を卒業するとき、みんな「もう終わりや」と言うんです。でも、これからの方が全然長いし、全然楽しい。私の周りでは50代も60代も「最高やぞ」と言っています(笑)。

そして、人と比べないこと。私も昔は比べて、劣等感ばかりでした。でも「みんなで自己ベスト」ですよ。他人はいいじゃないですか。自分の自己ベストを、何歳になっても追求する。それが最高じゃないですか。

生徒
木下さん、本日は貴重なお時間をありがとうございました。

木下学社長と生徒

ホテルニューアワジについて

ホテルニューアワジは、木下社長の母方の祖父が昭和28年に創業。淡路島で野菜の卸をしていた祖父が、熱海で人と人とが交流する姿を見て「関西にもこういう場所が必要だ」と一念発起し、地元の信用金庫に背中を押されて開業した。現在はグループ約20施設。岡山なら津山市、四国ならまんのう町・琴平町、神戸なら六甲アイランドと、あえて「マイナー」と言われる地域に展開するのは、観光を通じて地域の魅力を生かし、活性化させるため。「誰も手をつけていないところにこそブルーオーシャンがある」というのが木下社長の信条だ。

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