子どもを学校に預けるとき、保護者がいちばん知りたいのは、きっとこういうことです。うちの子の隣に、毎日、どんな大人がいてくれるのか。
青楓館高等学院(兵庫県明石市・芦屋市)で、藤原さんが何より大切にしているのも、そこです。仕組みでも、実績でもなく、まず先生。先生の質が、そのまま教育の質になるからです。
前編では、学院長・藤原照恭(ふじわら・てるやす)さんの歩みと、青楓館が目指す教育を伺いました。後編では、その教育を担う先生とは、どんな人なのかを見ていきます。
構成・取材/Flying Penguin編集部
【プロフィール】
藤原 照恭(ふじわら・てるやす)
青楓館高等学院 学院長。1990年生まれ、神戸市出身。関西学院大学大学院修了。ケニアのNGOで国際協力に携わったのち、IBM・アクセンチュアでITコンサルタントとして約5年間従事する。AO入試(現・総合型選抜)専門塾で校舎の立ち上げと運営を担い、開校1年目から100名を超える規模に育てる。その後、代表・岡内大晟と出会い、青楓館高等学院の学院長に就任。左足に障がいがあり、幼少期の入院や母の言葉を原点に、「できないことはない」を伝え続けることを人生のビジョンに掲げる。
教科を教えない学校の、先生の仕事
青楓館の先生は、世間一般でイメージされる「先生」とは、役割が違います。
一般に、学校は学年が上がるほど、教科を教えることに比重が移っていきます。学ぶべきことが増え、教科指導に特化しなければ、大学受験に間に合わないからです。その中で、生徒一人ひとりの夢ややりたいことは、どうしても後回しになりがちです。
青楓館は、教科そのものを教えません。先生の仕事は、大きく二つの現場にあります。
一つは、週に一度の1on1、個別の面談です。毎週向き合い、信頼を積み重ねていくと、あるとき生徒は、親にも打ち明けたことのない弱さを話してくれるようになります。
「親にも言ったことがないような弱いところを引き出せる。そこは本当に、教員のすごさだと思います」
もう一つが、PBL。プロジェクトを通して学ぶ、青楓館の中心的な学びです。ここで先生が担うのは、プロジェクトマネジメントそのもの。本番までの道のりを一緒に設計しながら、品質や納期だけでなく、その活動が高校生にとってどんな意味を持つのか、一人ひとりのモチベーションはどうかまで見ていきます。
教科の知識ではなく、一人の高校生の「やりたい」を、社会に届く形にまで伴走する。それが、青楓館の先生の仕事です。

採用の最後は、生徒と過ごしてもらう
その先生を、青楓館は独特のプロセスで選んでいます。一次で代表の岡内さんが人としての素質を、二次で藤原さんがビジネススキルを見る。そして最後に、候補者に普段の授業の場へ入ってもらい、生徒と過ごす姿を見ます。
「採用を大人だけで決めるのも、変な話ですよね」
面接の受け答えがどれだけ立派でも、この最後の場で、見送りになる人がいます。理由を物語るのは、生徒たちから返ってくる、こんな声です。
「学校には興味を持っていると思う。でも、僕には興味を持ってくれていない」
藤原さんによれば、これが、生徒からいちばん多く返ってくるフィードバックだといいます。
学校に興味がある。教育に志がある。それでも、足りない。青楓館の先生に本当に求められているものは、その先にあります。
目の前のきみに、興味があるか
ここで言う「興味を持つ」とは、どんなことなのでしょうか。藤原さんはこう言います。
「この子をなんとかしたい、きっと力になれる。そう本気で思うことです」
誰もが持っている可能性の輪郭を、その子の中に探そうとすること。見つけ出すこと。
けれど、その輪郭は、最初からはっきりと見えている訳ではありません。事情を抱え、伝えることに臆病になっている子、自信をなくしてしまっている子。そんな子どもたちは、はじめは「はい」とか「いいえ」とか、そんなことしか言えないかもしれない。でも、その小さな声の奥に目をこらせば、輪郭はぼんやりと見えてきます。
部屋に入ったとき、一人でいる子に気づいて話しかけられるか。元気な子とだけ盛り上がって、終わっていないか。
青楓館の先生に求められる「気づく力」とは、この力のことです。そしてそれは、仕事と割り切る態度だけでは、決して持てないものです。曖昧な輪郭を、あきらめずにつかもうとし続ける。誰かの可能性を、ずっと信じ続ける。それは、ある種の強さを必要とすることでもあるからです。
では、そんな態度を持てるのは、どんな人なのか。青楓館の職員室は、経歴だけ見れば、じつにばらばらです。けれど、共通していることが一つあります。生徒の弱さや迷いが、よく「見える」ことです。その見え方の源は、一人ひとり違います。
立ち上げから学校を支えてきた山本さん(※お名前・表記は要確認)は、自分自身も学校に行きづらかった時期を過ごし、人からどう見られるかに、人一倍悩んできました。だからこそ、同じように悩む生徒の気持ちが、痛いほど分かる。
「自分が傷ついて学校に行けなかったからこそ、周りからどう思われるかを、人一倍わかっているんです」
明石校を任されている織田さんは、大手メーカーからCCCへ、そしてオーストラリアで画家として活動し、神戸市の職員を経て青楓館へ来ました。
絵が好きなのに、これでは食べていけない、と諦めかけている生徒に、自分の「好き」で生きていけると本気で伝えられるのは、実際にアーティストとして絵を世に出してきた織田さんだからこそ、です。
「自分の好きで人生をやっていけると、唯一伝えられる人です」
自分の痛みから見える人もいれば、その道を実際に生きてきたから見える人もいる。源はそれぞれ違っても、生徒の弱さや迷いが見える。見えるから、あきらめずに信じられる。
そして先生たちには、その確信を支える経験があります。いま、たまたま課題を抱えているように見える子が、少しずつ社会とつながり、大学に進み、自分の夢を歩き始める。かつては言葉少なだった、あの子が、です。その瞬間を、先生たちは何度も、その目で見てきました。
信じられるから、あきらめない。あきらめないから、また次の変化が生まれる。
変化を見るたびに確信は深くなり、青楓館は強くなっていく。この学校の質の正体は、この循環にあります。

その先生を、守り抜くために
だからこそ青楓館は、先生の待遇にこだわります。初任給は30万円。年間休日は125日以上。将来的には、年収1000万円も見据えた設計です。
企業に出れば届く水準に、教育の世界では、五十代、六十代で管理職になるまで届かないことも多い。それでは人が集まらない、という構造への挑戦です。
「待遇を良くしないと、絶対に人は集まらない。その構造にチャレンジしたいんです」
教育を、憧れの職業のままにしておく。藤原さんと代表の岡内さんが見据えているのは、青楓館一校の成功ではなく、その先にある、日本の教育そのものの変化です。
今、悩んでいることが宝
最後に、我が子のことで悩む保護者へ、どんな言葉をかけたいかを尋ねました。藤原さんの答えは、意外なものでした。
「今、悩んでいることが宝です」
子どもは、自分が親を悩ませていることを、実はいちばん分かっている、と藤原さんは言います。親に迷惑をかけていると感じ、それでも本当は、親に認めてもらいたい。だからこそ、親が悩めば悩むほど、子どもはつらくなってしまう。
青楓館に来る子の多くは、これまで褒められる機会が少なく、自分に自信をなくしています。だから先生は、「今日、来てくれてありがとう」と、一つひとつ声をかけていく。その積み重ねが、その子の心を少しずつ満たしていきます。
そのうえで藤原さんが、保護者に伝えているのは、こういうことです。親が自分自身を責めず、自分らしく、楽しそうに過ごしていること。それが、子どもにいちばん伝わる。家に帰ってきたら、まず「よく行ってきたね」と褒めてあげてほしい、と。
目の前の一人に、本気で興味を持てるか。その可能性を、あきらめずに信じ続けられるか。幼い日の藤原さんの決意は、いま、先生たちに受け継がれ、学校のかたちになっています。そういう大人が、毎日、子どものそばにいる。だから、ここなら任せられる。取材を終えて、そう思いました。




